幻視のための真夜中音楽

  ここでは夜をよりよく楽しみ、体験するためによいと思われる音楽を紹介します。 内容は自分の趣味の稚拙な羅列になることを免れないでしょうが、自分にとっての深夜体験の記憶と 密接に関連を持った音源であります。このサイトの中でいちばん個人的なページかもしれません。 いずれにせよ気楽に音源紹介をすることにします。

三種の"LA JETEE"

  "La Jetee"または"Jetty"と名づけられた、共通の主題を持つ三つの楽曲がある。 いずれもいわゆるシカゴ系・ポストロックシーンの中では最も注目すべき人脈の演奏によるものである。 このうちいずれのグループ/プロジェクトにも関わっているのがジャズシーン出身のギタリストJeff Parker であり、『Possible Cube』でのクレジットを見る限りではこの曲は彼の手になるものと見てよさそうである。 それぞれの曲調はやはりそれぞれのグループの持ち味の違いが出ていて面白い。isotope217の演奏は フリージャズをベースにエレクトロ、アブストラクトの要素が入っている。曲調はいちばん穏やか。 Chicago Underground Trioはどちらかといえばisotope217よりも正統的なジャズの音を 鳴らしているように感じられる。tortoiseの演奏はもっとも劇的で疾走感を伴った楽曲に 仕上がっている。前二者との大きな差異はドラム/リズムなのだが、このあたりのアレンジはJohn McEntire の手腕によるものか。isotope217の曲調が回想的、Chicago Underground Trioのそれが 事後的な印象があるのに比べ、tortoiseの演奏はアルバムの前後の楽曲とのつながりもあり、現在進行形の劇的性が ある。
  また"La Jetee"といえばクリス・マルケルの映画『ラ・ジュテ』(現在では 『12モンキーズ』の原案になったことで知られる)が想起されるが、楽曲のほうが映画の内容にインスパイアされたのか どうかはわからない。個人的には映画の内容と結びつけて聽くことはできないなと感じられた。

  いま聴くと"Djed"ってTortoiseの楽曲群の中では異質な感じがする。この時期の音がそういう傾向にあったのか…紹介の語に「ジャーマンロック」と あったので誤解もあったかもしれないような。

  叙景的な音なのでドライブには大変効果的です。

付記
  tortoiseの"Jetty"にはリミックスバージョンがあり、シカゴ系のコンピレーションアルバム 『CHICAGO 2018 ...It's Gonna Change』に"Jetty99"として収録されています。 楽曲の雰囲気は全く別物です。アンビエントテクノ?みたいで面白くはあるけど、新作がぜんぶこんなだったらやだな…。
  Jeff Parkerの関わる別のプロジェクトにtricolorというのが あり、『mirth+feckless』というアルバムを出しています。全編ジャズ系のインストで、リラックスした音です。 上記3グループほど面白い(あるいは取っ付き易い)ものではないので注意。

付記2
  tortoise『STANDARDS』ですが、『TNT』には及ばないものの いいアルバムには違いないですね。永く記憶の片隅に残り、時折り強力に再聴の衝動にかられる音楽です。
  私はtortoiseを筆頭にして、いわゆるシカゴ系の音源をそれなりに聴いたりしていたことがあったのですが、 一時期リリースされるアルバム群が立て続けにつまらなかったということがあり、なんとなく醒めてしまったのですが、 tortoiseだけはおもしろい。他のグループ(プロジェクト?)とメンバーはけっこうかぶっているのに、不思議なものです。

涙の大聖堂、過ぎ去りゆくもの、天上の門

  King CrimsonRobert Frippは70〜80年代に「フリッパートロニクス」と 名づけたミニマル/サウンドループ効果を持つ獨自のギターサウンドを追及してきましたが、90年代に入ってそれを「サウンドスケイプ」へと 進化させ、良質のミニマル/アンビエントアルバムを発表してきました。
 上記タイトルの中でいちばん優しい、叙情的な世界が広がっている作品が『A Blessing of Tears』です。 サウンドスケイプを聴くならこれから聴き始めるのがいいだろうと個人的には思います。この作品には「亡き母への追慕」という主題が、 また『That Which Passes』には「死に関する一連の考察」という主題が添えられています。 このあとのリリースが『Gate of Paradise』と続くため、死→中有→境界通過→彼岸という連続した コンセプトで考えてしまうのだけれど、レコーディング時期を見ると順番どうりじゃないんですね…。 しかし私は勝手に「三部作」扱いして聴いてます。そのほうが面白いから。 例えばこんな具合です。「『A Bressing...』での悲しみの主体は生きている者の側であるのに対して、 『That...』では死者に視点が移されてゆく。広大な空間に解放されたような導入から、やむことのない逡巡、 不安、惜別の想いを経て、やがて彼岸への旅立ちがはじまる。『The Gates...』の前半部で何度も聽かれる 引き裂かれるような音は旅程の厳しい試練を想像させる」…。最終部"Sometimes God Hides"まで一気に聽くと、 ほんとうに「他界」へ到達してしまったかのような印象を受けます。
特に『A Bressing...』は深夜の郊外や山間部のドライブに最適なのです。 サウンドスケイプを聴きながら見る夜景は深い印象があり、私にとっては強烈な陶酔を与えてくれるものです。 思わず「我と汝」を引き合いに出したくなるほど忘れがたい風景が見えます。 『That...』も良いです。

付記・その他のサウンドスケイプ作品など
Sylvian/Fripp / Bringing Down the Light
私がいちばんはじめに聴いた サウンドスケイプってこれなんですよね。深夜に『怨霊戦記』やりながら怪談をしていたというナニなシチュエーションでした。 誰ともなく「何か出そうだから停めろ」。あの頃は若かった・・・。
 『1999』はサウンドスケイプシリーズ最初のものですが、いちばん厳格な音響世界で、 素面でもトリップできそうなほどです。これを深夜の奥多摩の山中でかけたら友人が寒気がするほど酷く嫌がりました。まあかけるほうもかけるほうだ…。
 『Novenber Suite』は他の作品と比べるとどうにも地味で淡泊な印象があります。 平均的とも言えるかもしれません。後半部に面白いところはあるのだけれど、他のアルバムほど魅力的ではありません。
 『Radiophonic』も他のシリーズほどのめり込むことはありませんでした。 最後の曲"Sky"はひとつの夢が醒めるようなよい導入ですが、全体を通して聽くことは…ほとんどないなあ。
KC新作に伴うインタビューでは今年の秋に再びサウンドスケイプのライブを行う予定があるとなっているので、 たぶん来年には新譜となるのでは期待されるところです。(付記:2002年4月現在音沙汰なし・・・。)
来日公演もやってほしいです。「やるならP3で」ということらしいですが。

雨のふる季節

  世界観が変わるなどということは、そう易々と起こることでもないし、また何度も起きることではない。
  雨上がりの夏の真夜中に初めて畑トンネルを訪れて、善悪を超えた圧倒的な存在感を持つ夜を目撃した時、私はそれが自分に起きたと思っている。それ以後、視界に入る風景はそれまでとはとても較べられないほど印象的になった。詳しいことは省く。転機といえば大袈裟かもしれないが、事件と呼ぶような些細なことではなかった。今に至るまでの志向の規範となったのは確かだ。しかし具体的に自分に何が起きたのか、以前と以後で何が変わったのか、そもそも「世界観が変わる」と表現するに適当なものであったのか、未だによく説明できない。それまで世界について大した関心など持っていなかったのだから、この場合「世界観を獲得した」と言ったほうが適切かもしれない。「風景を発見した」と言い換えることもできようか。夜に畑トンネルに行った人が皆、同じ心境になるわけではないから、たまたま自分が縁あってそうなったのだろうし、個人的な理由に拠るからこそ執着しているのもかもしれない。
  『Heavy as a Really Heavy Things』Devin TownsendStrapping Young Lad名義による1stで、当時リリースされたばかりだったが、あの時頭の中で勝手に鳴っていたのがこのアルバムで、具体的にはtrack.2の"In the Rainy Season"だった。だからこのアルバムを聴き返すと、風化してゆく体験を少しでも思い出すことができる。私にとって理想的な夜景は光よりも闇の占める割合が多いのだが、ノイズとアンビエントの要素が入ったこのアルバムはそのような夜景によく合っている。(インタビューを読むと日本の闇に多少はインスピレーションを得たようでもある。)
  Strapping Young Lad名義の2nd『City』は新宿のような、都会の夜景によく合っています。都内の夜景BGMといえばこれ。右に出るものはない。実際、内ジャケには西新宿や歌舞伎町の写真が使われている。たぶん1stのプロモーション来日時に撮影させたものだろう。邦題は『歌舞伎町から超鋼鉄重低爆音』だった。SYLの邦題はどれも批判が多いが、その後のInfinity発表後に来日公演をリキッドルームで行い、この邦題は現実のものになってしまった。
  どうでもいいがこのアルバムはジャケに"THIS ALBUM IS DEDICATED TO PEE AND POO"とある。1stは"THIS ALBUM IS DEDICATED TO MY STINKY BUM"だった。PUNKY BRUSTERに至っては・・・。最近のDevinのアルバムにはこういうのがなくてちょっと寂しい。





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